割れた器や欠けた器の修繕方法である「金継ぎ」とは何なのか?
金継ぎ初心者の方にもわかりやすく、歴史や魅力を交えてご紹介します。
金継ぎの歴史
金継ぎの始まり
金継ぎの起源については諸説ありますが、
はるか昔の縄文時代から、漆塗りの木製品や土器は作られていました。
東京のとある街にある縄文時代の遺跡からは、
土器のひび割れや欠けを漆で修理したものが発見されていて、
その頃には既に「器を漆で修理することが行われていた」ということが分かっています。
器が壊れたら捨てる、ではなく、器が壊れても直して使う、ということは古くから日本人の心にある、あたりまえの価値観なのかもしれません。
日本で金継ぎが盛んになったのはいつ?
縄文時代の遺跡から見つかった土器には今のような金粉は使われておらず、
漆だけで修理されていました。
そして時を経て、茶の湯の文化が盛んになった室町時代に、
金継ぎも多く行われるようになったようです。
当時は今ほど輸送技術が発達していなかっただろうなと想像できるので、
中国から貴重な器を運ぶ途中で、割れたり欠けたりすることがあり、
その器を修繕する方法として用いられるようになったのでは、と考えています。
さらに、日本で金が採れたことや、
金粉を作る技術が発達したことも、
金継ぎが盛んになったことと関係があるように思います。
現在の金継ぎ
現在、「金継ぎ」と呼ばれていて、
器を修繕する方法としては3種類あります。
①接着剤とエポキシパテを使い、金色の塗料で仕上げる。
②接着剤とエポキシパテを使い、仕上げだけに漆と金粉を使う。
③漆で割れを接着し凹みを埋め、漆と金粉で仕上げる。
①は、「簡易金継ぎ」「現代金継ぎ」などと呼ばれていて、
金継ぎ初心者の方へ向けた1日で完成する金継ぎ体験ワークショップでは
よくこの方法が使われています。
③は、昔からある伝統的な方法です。
壊れた器の接着や、凹みを埋めること、
金粉を表面に接着することにも全て漆を使います。
完成までには何日かかかりますが、金継ぎ初心者でも挑戦できる方法です。
(手袋を使ったり、漆が体につかないように気をつければ、漆かぶれの心配も少ないです。)
②はその二つの方法を組み合わせた方法です。
ちなみに、「器を修繕する」方法は金継ぎだけではなく、
割れや欠けを直すだけでなく、
模様や質感も復元して、元の器と全く同じ見た目に直すという方法もあります。
金継ぎではどんな材料を使って器を直す?
伝統技法で使われる材料
表面に見えているのは「金」なので、
金属や金で修繕すると思われることもありますが、
「漆」を接着剤や凹みを埋めるパテとして使い、修繕します。
漆は日本では古くから使われてきた天然素材で、
ウルシの木から採れた樹液です。
(漆は日本だけではなく、中国大陸や朝鮮半島、ベトナムやミャンマーなどの東南アジアでも古くから使われています。地域によって、漆の質が少しずつ違うのが面白いです。)
この「漆」には主に3つの役割があります。
・接着剤
・充填材
・塗料
これを金継ぎの工程で漆の役割を表すとこのような感じになります。
・接着剤=割れた器をくっつける。金粉などの金属粉をくっつける。
・充填材=欠けなどの凹みを埋める。
・塗料=接着や凹みを埋めた後に、表面を滑らかにする役割と、水が浸み込まないように表面を保護する役割。
(漆で作る金継ぎ用接着剤の材料は「漆」と「水で固めに練った小麦粉」のみなので、
時々料理をしているような気分になります。)
充填材に使うパテは、漆と小麦粉で作った接着剤に木粉を混ぜたものや、
漆と水で練ったとの粉(石を細かい粉末にしたもの)を混ぜたものを使います。
伝統的なやり方で使う材料は
自然界にあるものや食材を使うので、最初はびっくりするかもしれません。
簡易金継ぎで使われる材料
主にエポキシ系の材料と、金色の塗料を使います。
2種類の材料を混ぜて硬化します。
伝統的な漆を使う方法では、全ての工程に「漆+何か」または「漆のみ」を使いますが、
簡易金継ぎではそれぞれの工程ごとにそれぞれに合った違う材料を使います。
・接着剤=エポキシ系接着剤
・充填材=エポキシ系パテ
・塗料=新うるしなどの塗料
ちなみに、新うるしは「うるし」という名前がついていますが、
ウルシの木の樹液である「漆」は入っていません。
植物由来の樹脂を使った漆風の塗料です。
新うるしは、体についてもかぶれる心配はありませんが、
メーカーの注意書きを読むと、
色がついている新うるしは、直接口を付けるカップや料理を盛り付ける器には使わないということをすすめられています。
(「漆」とは違うものの、漆のような雰囲気を楽しめますし、使い方によっては新うるしはとても便利なので、Urushi villageでは金継ぎアクセサリー作りに使っています。)
伝統的な金継ぎと簡易金継ぎの違いとは?
伝統的な金継ぎは、既にお椀やお箸・スプーンなどを作る材料を使用するので、
直接口に触れるカップや、料理を盛り付ける器、花器や置き物など、
幅広いものを安心して修繕することができます。
漆を使っているため、体につくとかぶれる心配があったり、
金継ぎが完成するまでに時間がかかることがデメリットかもしれませんが、
安心して使える技法ということは大きなメリットです。
簡易金継ぎは漆かぶれの心配がないことと、
完成までの時間が短いのがメリットかもしれません。
ただ、簡易金継ぎで修繕することは、
体への安全面に不安が残るので、
カップの持ち手やソーサー、花器や置き物など、
直接口や料理に触れないものを修繕することだけに限定することをおすすめします。
漆で器を直すほうがゆったりとした気持ちで行えて(漆はゆっくり固まるので作業に多少時間がかかっても大丈夫)、
しかもパリッとした綺麗な仕上がりに出来るので、
やはり漆での金継ぎのほうがおすすめではあります。
ただ、1工程ごとに漆を乾かすために時間が必要なので
(最初の接着は1~2週間かそれ以上、それ以降は1工程につき8時間くらい)
完成までにはびっくりするくらいの時間がかかります。
時間はかかるものの、
漆を使った金継ぎは、初心者でもできるように教室があったり、
色々なキットや本も出ているので、
ぜひ最初はゆったりとおおらかな気持ちで挑戦していただきたいです。
金継ぎの魅力
海外でも注目される金継ぎ
今、日本の「金継ぎ」は「Kintsugi」として、海外でも注目されています。
国連事務総長のスピーチに「金継ぎ」が登場
2020年に開催された国際平和デー記念式典で、
アントニオ・グテーレス国連事務総長が新型コロナ後の世界について、
日本の「金継ぎ」に例えてこのように語りました。
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「その結果生まれるのは『新品同様』のものではなく『新品をしのぐ』器です。私たちも国際平和デーを記念するにあたり、亀裂を深める私たちの世界にこの理念を用いようではありませんか」事務総長はこのように呼びかけています。
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(出典:国際連合広報センターHPより)
「金継ぎ」をヒントに映画が制作される
金継ぎに着想を得たジョージアのラナ・ゴゴベリゼ監督が制作した「金の糸」という映画があります。
さらに、フィリピン映画界で活躍するローレンス・ファハルド監督が制作した、その名も「金継ぎ(Broken [Kintsugi])という映画もあります。
金継ぎ風のデザイン!
これらの他にも、ハイブランドジュエリーや、有名映画のキャラクターのコスチュームにも
金継ぎで印象的な金のラインをヒントにしたデザインが取り入れられています。
金継ぎの魅力とは
壊れた器を捨ててしまうのではなく、
大切な器を捨てずに使い続けることができて嬉しい。
しかも、伝統技法で使う漆は、
ウルシの木を植えて育て、そこから採る樹液なので、
(これがとても大変な労力が必要ではあるのですが・・・)
サステナブルな素材でもある。
というところが金継ぎの大きな魅力だと思います。
さらに・・・
完成までの器と向き合う時間が、自分の心の癒し時間にもなる。
(これはやってみないとわからない魅力!)
修理だけでなく、そこに新たな美しさを見出すことができる。
ということも、金継ぎが日本でも海外でも人気になる魅力のようです。
日本の考え方や文化が世界でも注目されている「金継ぎ」。
金継ぎのプロにお任せすることも出来ますが、
初心者でも挑戦できる器の修理方法なので
大切な器が割れたり欠けたりしても捨てずに、
ぜひ日本の伝統技術を楽しんでください。